日本学術会議第25期推薦会員任命拒否に関する人文・社会科学系学協会共同声明


  人文社会系の学会が、分野を超えた大きなまとまりで、共同声明「日本学術会議第25期推薦会員任命拒否に関する人文・社会科学系学協会共同声明」を発表しました。
  声明文は以下のリンクからご覧ください。
  人文・社会科学系学協会共同声明

  この声明に対して、海外の宗教学者から応援のメッセージが届きました。

匿名(ヨーロッパの宗教学者)
政府が優れた研究を利用しようとするのは当然だが、コンラッド・ラッセルが『学問の自由』(1993年)において指摘したように、学術は、政府の介入から自由な環境において行われることなくしては、政府にとっても誰にとっても価値がない。これは自明のことであろう。というのも、学術は、その成果に基づいて行われる大学教育もそうだが、私たちの誰も知らない事がらを発見し、理解することに関することだからだ。そのような事がらは政府内の権力の中枢にある者すら未だ知らないのである。政府が、当て推量によって学術の方向や成果に規制をかけても、結果的には政府自身を利することにはならない。

ティム・イエンセン氏(国際宗教学宗教史学会会長)
デンマークの公立大学である南デンマーク大学人文学部に所属し、ドイツ・ハノーファー大学の名誉教授でもあるひとりの宗教研究者として、日本の研究者への支援をここに表明したい。私は彼(女)らの懸念を理解、共有し、その主張を強く支持する。
1950年に設立された世界的な学術団体である国際宗教学宗教史学会の会長として、私には、世界の学術団体や研究者が、学問――今回の事件では特に人文学に関して――の自由の価値に対する攻撃とみなすべきことによって苦しむならば、支援を表明する強い意志と義務がある。

スティーブン・エングラー氏(カナダ・マウントロイヤル大学教授 Religion誌編集委員長)
菅首相と菅政権に敬意を表しながら、日本学術会議の自律は、さらに言えば人文社会科学への支援は、政府自身の課題とも矛盾しないことを指摘したい。21世紀において人文社会科学はかつてないほど重要性を増している。人文社会科学の諸分野が学生の認知能力や情報活用能力を高めるということについては議論の余地はない。それによって学生個人の人生も豊かになり雇用機会も向上する。政府は社会的有用性や経済力に焦点を絞りたがるが、より重要なことは、人文社会科学は、イノベーション文化、創造性、(変化する環境への)適応性、道義的責任感を創り維持する上でその中心になるということだ。これらはいっそうダイナミックに変化する私たちの世界においてますます不可欠なものになっている。STEM(科学・技術・工学・数学)分野は、製品、プロセス、技術など、「中身」を作る。それに対して人文社会科学は「形」を作る。すなわち、人文社会科学はそのような「中身」を、国家や地域や何らかの組織の優先的価値と統合し、政策、価値、プロセスを比較の観点から評価し、政治的・戦略的計画と批判とに知識を提供する。もっとも根本的には、STEM分野の学生や、組織や政治の領域で将来リーダーになる学生が、批判的思考や水平思考を初めとする数多くの不可欠のスキルを身につけることを人文社会科学は可能にする。人文社会科学者の研究成果の評価に重点を置きすぎる政策は問題である。人文社会科学は教育上の貢献により、国家にとっても世界にとってもきわめて重要なものとなっている。ただしその教育は、政府からの規制を受けない研究に基づくものである。