日本宗教研究諸学会連合研究奨励賞

国際的に見て、日本の宗教研究の長所の一つは多様性にあります。本連合は、その多様性を時代に即した方法により更新しつつ維持するという観点から、特に意義の高い研究プロジェクトを振興します。
宗教研究分野の個人・共同研究プロジェクトのうち、独創性、実現可能性、予想されるインパクトにおいて際立ったものを表彰するため、「日本宗教研究諸学会連合研究奨励賞」を創設いたしました。
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2022年度受賞者

奨励賞受賞者

1.「仏教倫理の基礎理論構築にむけた「組織仏教学」の分析」
研究代表者 一色大悟
研究分担者 柳幹康、八尾史、笠松和也、釋道禮

プロジェクト概要(近日掲載)

2.「古代世界における宗教的資料に基づく夢概念の分野横断型総合研究」
研究代表者 津田謙治
研究分担者 渡邉蘭子、河島思朗、早瀬篤、藤井崇

プロジェクト概要
西洋古代における夢概念の分析は、宗教学だけでなく、隣接する様々な学問領域において研究が行われてきた。宗教学の分野では、聖典などに記述された神から送られる夢や、我々が日常的に見る記憶の彼方にある死者を具象化しうる夢などは、宗教現象の基底の一つとして研究対象と見做されている。また、ギリシア神話や古代哲学、歴史的出来事などで記述された夢に関しても、それぞれの学問分野で膨大な研究の蓄積が見出される。しかし、こうした状況にも拘わらず、ここには分野間相互に有機的な結合を促す視点や研究手法に関する議論が十分に行われているようには見えない。特に、宗教学において複合的な学問領域に関連する資料を扱う場合や、近接する学問領域において宗教的な資料を扱う場合、上記のような議論の重要性が認識される。
本研究は、上記のような問題背景を踏まえて、西洋古代の様々な文献や史料に見られる夢概念を、宗教学を主軸として、西洋古典学、哲学、歴史学の三つの学問領域から統合的に分析することを試みるものである。具体的には、哲学などを聖書解釈や教理発展と結び付けたヘレニズム的ユダヤ人(アレクサンドリアのフィロン)や初期のキリスト教の教父(テルトゥリアヌス、アウグスティヌス)のように、近接する分野に関連する議論を展開する宗教的思想家のテキストを考察の中心に据えた上で、西洋古典学から夢と神託(ホメロス、ウェルギリウス、オウィディウス)に関して、哲学から夢の働き(プラトン)について、歴史学から刻文(アスクレピオス神殿出土)や同時代史的資料(アルテミドロス)について分析を行い、それぞれの学問的視点から批判的に研究手法の吟味を重ねる。このように、宗教的文脈における夢概念を、民間伝承や神話、哲学、碑文研究など隣接する学問領域の研究手法を相互的に用いつつ考察することを通じて、宗教研究における新たな総合的視座の構築に寄与することを目指す。

3.「世俗化と⾵紀に関する宗教・地域間⽐較:⼀神教社会を中⼼に」
研究代表者 高尾賢一郎
研究分担者 小柳敦史、丸山空大、後藤絵美

プロジェクト概要
現代社会で守るべきとされる規範には、成文化された有形のものと、暗黙のうちに要求される無形のものの双方が含まれる。本研究では、これら有形・無形の規範が混ざり合った社会秩序のメカニズムを「風紀」と呼び、ユダヤ教・キリスト教・イスラームが根づいたセム系一神教社会を対象として、伝統的な価値観を形成してきた宗教と規範の関係を明らかにする。
近代社会における宗教の位置を論じた世俗化論は、西欧社会をモデルとして、規範体系を公と私の領域に分解し、主な関心を公の領域における法規範と宗教の関係に向けてきた。それは影響力を持ったが、1990年代以降に批判的検討された結果、世俗化はせいぜい近代西欧固有の現象であるだろうと見なされるようになった。とはいえ、こうした世俗化論批判が正当なものであるとしても、西欧的近代との折衝の中で、宗教的伝統と密接な関わりを持った規範がその拘束力を失う、あるいは逆に公共領域で拘束力を持つといった変化が多くの地域で生じていることは否定しがたい。こうした中、従来の世俗化論批判の問題意識を引き継ぎつつ、より広い範囲で適用可能な理論を模索するための議論が必要となる。
そこで本研究では、ユダヤ教・キリスト教・イスラームのそれぞれが西欧的近代と関わってきた経験の歴史的・地域的多様性に目を配り、そこでの社会規範と生活者の関係を風紀という観点からイーミックに描き出すことを試みる。具体的には、研究協力者から知見の提供を受けながら、ヨーロッパ、ロシア、南北アメリカ、中東、中央アジア、東南アジア、東アジアといった地域の一神教社会を対象に世俗化論の再検討を進める。このような、従来の世俗化論及びポスト世俗化論にはない、実証的かつ地域横断的な研究により、各一神教社会の世俗化に見られる普遍性と、宗教・地域別の固有性を浮かび上がらせることができると予想される。

奨励賞候補者(2022年度予備審査合格者)

1.「公教育を巡る⽂部省の政策過程の検討を通じた近代⽇本の宗教・政治・教育の関係史研究」
研究代表者 髙瀬航平

2.「アジア主義・超国家主義と宗教―道院・世界紅卍字会と大本教の連合運動―」
研究代表者 玉置文弥

 

2021年度受賞者

奨励賞受賞者

1.「宗教概念批判を経由した宗教哲学の可能性についての総合的研究」
研究代表者 下田和宣
研究分担者 樽田勇樹、根無一行、古荘匡義、山根秀介

プロジェクト概要
近年の宗教研究のあり方を考えるうえで、20世紀後半以降に展開されてきた、いわゆる宗教概念批判の議論は大きな意義を持つ。19世紀以来の西洋近代宗教学は、「世俗」と切り分けられた精神的・私秘的領域として、「宗教」を実体化・体系化してきた。いまや宗教概念形成に対する系譜学的批判が徹底されることで、従来の宗教学・宗教哲学が依拠していた思考の枠組みに対する根底的反省が可能となる。そこでは「宗教/世俗」の二項対立のみならず、宗教/哲学、信仰/知、あるいは宗教哲学/宗教史学というディシプリンとして仮構された対立、さらには文化地理的な分断を促進する東洋/西洋といった広く支配的な思考枠組みもまたラディカルに解体される。
とはいえ、本プロジェクトはそれらの従来の道具立てに対する無効化と清算に向かうものではない。むしろ系譜学的批判を経由することではじめて可能となる仕方で、宗教哲学研究の積極的なあり方を模索するものである。宗教概念が持つ諸問題を一括で断罪し処理しえたとしても、さまざまな言説領域でなお宗教の語りが求められている。したがって、宗教概念をただ手放すのではなく、むしろ宗教概念の受容・継承と新たな意味付与、これまでにない仕方での概念使用へと、目を転ずることが必要だろう。それは従来の思弁的・あるいは体験的な宗教哲学とは異なる研究地平に立脚することでもある。「宗教とは何か」という問いに沈潜するのではなく、その問いがいかに発せられ、どのように機能するのか。他に選択の余地なく宗教という言葉に何かを見込み、そこに賭けざるを得ない状況とはいかなるものであるか。このような視座を構えることで、宗教概念を称揚するのでも断罪するのでもない仕方で、宗教の真実性と虚構性の狭間に位置する人間学的事実へと思考を開く。それにより、例えば公共空間における宗教の役割などの新たな宗教研究の方向性に対して、哲学的考察を用意することが目指される。

2.「宗教学と心理学の共同研究のための基盤構築および実施−日本人の宗教性の解明の提案−」
研究代表者 松島公望
研究分担者 藤井修平

プロジェクト概要
本研究の目的は,宗教学と心理学の共同研究によって既存の研究では見えてこなかった宗教の側面を明らかにするために,①宗教学と心理学の学際的共同研究を促すための環境を構築し,②心理学的手法による宗教の学際的研究を実施することである。
①.これまでの宗教学における宗教心理学は,主に思想研究として心理学を対象とするものであった。それに対し本研究は心理学的・実証的手法を用いるが,これらの手法に対しては批判の声も多く聞かれる。そこで本研究では,宗教学と心理学の学際的研究を促す環境を構築するため,両者の方法論を批判的に検討し,見解の相違点を明らかにすることにより,両分野の間に架け橋をかけることを試みる。
②.①で得られた成果をもとに,心理学的手法による宗教の学際的研究を実施する。本研究においては,日本人の宗教性の解明を目的とする。すなわち,日本で開発された宗教性尺度の質問項目を素材として日本人の宗教性の洗い出しの作業を行い,その上で,「新たな日本人の宗教性尺度」の開発を行い,その尺度をもとに日本人の宗教性の様相を明らかにする。
日本人を対象にした宗教性の調査は,1900年の元良勇次郎らの研究に端を発しているが,それ以降に開発された宗教性尺度をすべて収集し(現在,156論文を収集),その質問項目を整理・分類・分析を行うことにより日本人の宗教性の特徴を明らかにする。その上で,「宗教性尺度から新たに見えてきた日本人の宗教性の特徴」と「人文科学分野・各宗教教団で語られてきた日本人の宗教性の特徴」とを突き合わせて,その特徴の違いや共通点を精査する。この作業は,宗教学と心理学の学際的共同研究を促す環境が十全に構築されて初めて遂行できるものである。この作業の成果をもとに開発された「新たな日本人の宗教性尺度」を用いて,「無宗教を自認する群~複数の宗教教団の宗教者群」を対象に質問紙調査を行い,日本人の宗教性の解明の新たな道を示したいと考えている。

奨励賞候補者(2021年度予備審査合格者)

1.「仏教倫理の基礎理論構築にむけた「組織仏教学」の分析」
研究代表者 一色大悟
研究分担者 柳幹康、八尾史、笠松和也、釋道禮

2.「古代世界における宗教的資料に基づく夢概念の分野横断型総合研究」
研究代表者 津田謙治
研究分担者 渡邉蘭子、河島思朗、早瀬篤、藤井崇

3.「世俗化と⾵紀に関する宗教・地域間⽐較:⼀神教社会を中⼼に」
研究代表者 高尾賢一郎
研究分担者 小柳敦史、丸山空大、後藤絵美